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2022.03.31インタビューぷちコン

UE4ぷちコン 映像編を連覇した開発者に突撃インタビュー! Unreal Engine 5で制作されたストップモーションアニメ『Living in the Darkness』

2021年12月17日(金)から1月10日(月)に渡って開催された、Unreal Engine 4(以下、UE4)の学習を目的としたコンテスト『UE4ぷちコン 映像編3rd』。
全52作品のうち、最優秀賞を受賞したwviglerさんに、ストップモーションアニメに挑戦した経緯や、本物のクレイ人形のような表現を実現するための工夫についてお聞きしました。

 

UE4ぷちコン映像編3rd 最優秀賞『Living in the Darkness』

 

針灸師からゲームクリエイターへの転向

プロフィールと、これまでの来歴を教えてください。

wvigler(ヴィグラー)と申します。もともとは医療系の専門学校を卒業して鍼灸師として働いていましたが、UE4ぷちコンがご縁となり、今年からゲーム会社のエンジニアとして働くようになりました。
これまでに制作系の会社や専門学校で学んだといった経験はなく、Unreal Engineは独学で学びました。

 

―映像制作だけでなくゲーム制作も行っているwviglerさんが、ご自身の作品をつくり始めたきっかけを教えてください。

転職活動中に少し時間ができたので、昔から好きだったゲームを自分でつくってみようと考えました。父親がプログラマということもあり、小学生の頃からパソコンに触れる機会が多かったことや、C言語やPythonなどのプログラミング言語を勉強していたため、やろうと決めてからはスムーズにゲーム制作の世界に足を踏み入れました。

映像制作については、ゲームづくりの延長戦な部分もあります。近年のゲームには必ずと言って言いほどカットシーンがありますし、面白いゲームは良い映像シーンとセットであることが多いですよね。ゲームを作る上でも映像的な技術や演出は必要ですし、両方のスキルを持っておくことは大切だと思います。

 

―はじめて映像作品をつくったのはいつ頃でしょうか。

私自身が初めて作品として完成させたのは、UE4ぷちコン 映像編で制作した『LADYBUG』です。当時は、とにかく完成させて公開してみたいという気持ちが大きかったので、気軽なコンテストの場所はありがたかったです。自主制作として公開するよりも、UE4ぷちコンに応募したほうが業界の方をはじめとする多くの方の目に触れますし、なにより締め切りがあったので、だらだら作らずにしっかり完成まで持っていけると考えました。

 

世界初のUE5製ストップモーションアニメを目指して作られた『Living in the Darkness』

―今作『Living in the Darkness』の内容を簡単にご紹介ください。

『Living in the Darkness』はUnreal Engine 5を使ってストップモーションアニメ風の表現に挑戦した映像作品です。主人公がある昆虫を退治しようとする、というストーリーです。

 

―Unreal Engineでストップモーションアニメ風の作品は非常に珍しいと感じましたが、この映像スタイルを選んだ理由を教えてください。

個人的な考えですが、現在のアニメーション作品は2つの大きな流れがあると思っています。1つは人形劇から派生したストップモーションアニメ、もう1つは紙芝居から派生したセルアニメです。3DCGは、前者から派生したものだと思っています。3DCGでストップモーションアニメ調の作品を作ることを人形劇への先祖返りと捉えることで、自分でも実現できるのではないかと考えました。また、『コララインとボタンの魔女』や『KUBO/クボ二本の弦の秘密』等のストップモーションで有名なLAIKAアニメーションが、ストップモーションの中に積極的に3DCGを組み込んでいるという話を聞いた事も、ストップモーションアニメへの挑戦を後押ししてくれました。

Unreal Engineで制作されたストップモーションアニメの前例が見つからなかったため、「最初の1人になれる」と思ったことも今回の制作に至った理由の1つです。

 

―シナリオはどのように考えていきましたか?

実はストーリーについてはあまり深く考えていなくて。最初は「朝起きて、ごはんを食べて、家を出ていく」という日常の朝の風景を撮ろうと考えていました。しかし、制作途中で「このストーリーだと盛り上がりに欠けるな」と思い、昆虫を登場させました。

シナリオ含め全体で一番意識したのは、「あまり日常を美化して描かず、かといって過剰に不幸にも描かない」ということです。主人公は賃貸暮らしで広い家に住んでいるわけでもないし、ラーメンを鍋から直接食べてしまったり焼酎のパックを部屋に転がしっぱなしにしてしまったりするようなずぼらな性格の持ち主です。美しい日常を送っているわけではないけれど、毎日ご飯が食べられて、怪我や病気もない。ただ同居人の昆虫に対しては不満を感じているというような、等身大でリアルな人物像を大切にしました。

 

―クレイアニメーションらしさを出すためにした工夫を教えてください。

外側の天球以外は全てBlenderで自作したのですが、そのままだと普通のつるっとした粘土のようでクレイアニメーションらしさには物足りません。そこで、実際に手作りしたモデルに見えるように、モデル全体に指紋を付ける事にしました。クレイ風の素材をMegascansからダウンロードして、NormalFromHeightMapというマテリアルノードで指紋のテクスチャをつけて凸凹っぽく見せています。さらに、Megascansの素材そのままだと土っぽい色がついているので、作品に合うように色を付けなおしました。

ちなみに、BlenderではSendToUnrealというアドオンを使うと作業が捗るのでおすすめです。FBXのゴミファイルが出なくなって、かなり手間が省けます。

 

―モデル面だけでなくアニメーションにも工夫があると思いますが、クレイアニメーション風に見せるためのアイディアを教えてください。

FPSを落とすだけでもある程度クレイアニメーションらしく見えます。『Living in the Darkness』は12フレームで撮りました。当初は8フレームで検討しましたが、最近のストップモーションアニメはフレーム数が多いものもあるため、それらしく見えるところで12フレームを採用しました。

コツとしては、モーションブラーを切ることと、ポリゴン貫通を避けることです。1コマずつ撮影を行うクレイアニメーションにはブラーは必要ありませんし、キャラクターが壁を突き抜けた瞬間、「粘土がそこにある」というリアリティが全部台無しになってしまいます。ここはかなり気を使いました。

 

―ライティングで工夫したことはありますか?

今回Unreal Engine 5を使ったのは、Lumenを採用したかったからです。ライティングは閉じられた空間の中で、少し薄暗い感じを出すように意識しました。ライトを置きすぎるとわざとらしくなってしまうので、置く場所は限定して光の周りこみを活かしています。廊下と台所の2か所にライトがあるのですが、2つ点けると明るくなりすぎてしまうので、それぞれを調整して違和感のないようにバランスを取りました。

 

―やかんやドアなどの金属部分は、メタリック感を残していますよね。クレイアニメーションらしい画作りを考えると、むしろここも粘土風にしたくなると思いますが、この辺りはいかがでしょうか。

制作途中でメタリックな表現を抜くことも考えたのですが、Megascans側で素材ごとにラフネスを調整することでプラモデルの金属部分にあるような灰色のラメがはいったような表現になったので、そのまま採用しました。

 

―Unreal Engineでの開発で良かった点を教えてください。

やはり、Lumenを利用できることです。Lumenは少し暗い画作りにすると映えるため、クレイアニメ風、例えば『コララインとボタンの魔女』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のような映像と相性が良いので、今回は全面的に採用しました。また、今回はConstruction Scriptを多く触りました。Blueprintを組んで、パラメーターをいじったらどういう見た目になるのか、シーケンサーでプレイすることなく確認できるので便利でした。

Construction Scriptのノード。BPを触りながら左側のプレビュー画面でリアルタイムに確認が出来る。

 

―今回のUnreal Engineでの開発で、映像制作ならではの良かった点があれば教えてください

とにかくシーケンサーが直感的で使いやすいことです。アニメーションをブレンドするときに自然に移行してくれる点が良いですね。過剰に重くならず、1枚1枚レンダリングすることもなく確認できるので、効率化に繋がりました。

 

―ゲーム制作と映像制作を行う際に、手法や考え方の違いはありますか?

ゲーム制作は技術的な挑戦が多い一方で、映像制作は今までにない見た目を作るというような、見た目への挑戦が多いのではないかと思います。ワークフローについては、僕の場合はあまり大きな違いはありません。映像もゲームも作りたいジャンルを先に決めて、内容は後から考えます。

ただ映像の場合は音楽を早めに決めるべきだと思います。『LADYBUG』は映像を先に制作して、後から音楽を入れたのですが、映像と音楽が全然合っていなくて。それ以降は映像作品の場合は必ず音楽を先に決めるようにしています。

 

―映像制作に際して特に苦労した部分はありますか?

やはり、ここもLumen関係ですね。最初は家を板ポリで作っていたのですが、暗くすると端の部分から光が漏れてしまって。壁を厚くしたことである程度改善することはできたのですが、やはり細かい部分は光が漏れてしまっています。アニメーションの部分も、キャラクターのモデルの手を大きく作りすぎて、普通に動かすと色々なところにぶつかってしまったんです。ポリゴン貫通を避けたかったので、アニメーションをつけるときはどうにかぶつからないように試行錯誤しました。

鍋の動きの部分はアタッチでは難しかったので手付けで付けていますが、これはかなり手間がかかりました。ただ、手付けしたおかげで1コマ1コマにきちんと作られている感じが出て、ストップモーションアニメらしさをより表現できたと思います。

シーケンサーの画面。鍋を宙に投げてひっくり返すアニメーションを一コマ一コマ付けている。

 

―今後作ってみたい作品や、キャリアの展望を教えてください。

今回クレイアニメーションを作りましたが、本物のクレイアニメーションのように物体を自在に変形させるのはとても手間がかかるので実現できなかったんです。今後もう一度クレイアニメーションを作って、今度はそのような表現に挑戦したいです。ストップモーションでいうと、他にも切り絵アニメーションやサンドアニメーションもやってみたいです。

あとは、アニメの偽オープニングムービーなどもつくってみたいですね。新しい表現ができそうであれば、ジャンルを問わずなんでも挑戦したいと考えています。