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2025.12.16UE5

『REAL MOON』技術解説:観測データから構築した月面シミュレーションの詳細

■REAL MOONの紹介

月面探索シミュレーター『REAL MOON』はヒストリアと国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究により制作した月面地形のシミュレーション環境を用いて制作しました。

本ブログでは、『REAL MOON』で使用している地形を制作するにあたり行った研究内容の一部を紹介します。

『REAL MOON』 Steamページ:https://store.steampowered.com/app/4143610/REAL_MOON/

本作の概要は【こちら】をご覧ください。

 

本作はUnreal Engine 5で制作いたしました。

LandscapeとWorld Partitionを使用した広域地形の表現、Virtual Shadow Mapsを利用した動的な影の表現など、Unreal Engine 5の機能を用いて実装しています。

 

■JAXAとヒストリアの共同研究について

弊社は2024年よりJAXAと月面シミュレーション環境をUnreal Engine 5で構築する共同研究を行っています。

月面環境を精度高く広域に再現し、物理シミュレーションを含んだ統合的な月面のシミュレーション環境の構築を目的とし、将来的にはローバーの走行シミュレーションをはじめとした、様々な用途への活用を目指しています。

 

本研究の詳細は以下の学会において発表しております。

平澤遼(宇宙航空研究開発機構),佐々木瞬,山野瑞生,松田隼哉,成松亮(株式会社ヒストリア):月極域探査 LUPEX 後継に向けた月面シミュレーターの開発,第69回 宇宙科学技術連合講演会,2025.

本作では、上記研究よりこれらの技術を利用しています。

  • DEMを用いた地形生成
  • 小規模クレーターの再現
  • 岩石の分布率について
  • 時間ごとの天体位置の再現

以降では、これらの技術の概要を紹介いたします。

 

■DEM(Digital Elevation Model)を用いた地形生成

本作の地形は、月面の標高を数値化した DEM(Digital Elevation Model)を基礎データとして構築しています。

使用しているDEMは、NASAが公開する 「High-resolution Lunar Topography(SLDEM2015)」 および 「LROC NAC DTM THEOPHILUS3」 の2種類で、これらの観測データを元に月面地形を再現しています。

 

〇近景エリア

プレイヤーが移動可能なエリアを含む近景には、

頂点間約2mのDEM(LROC NAC DTM THEOPHILUS3)を元データとして使用しています。

移動可能範囲

 

〇遠景エリア

遠方に見える山々や上空から見下ろした際の遠景エリアには、

頂点間約60mのDEM(High-resolution Lunar Topography(SLDEM2015))を元データとして制作しています。

本作では約800km x 800kmの広大な地形を上記のDEMを元に再現しています。

約 800km x 800km範囲の地形、中央の黄色の点が移動可能範囲

 

〇月の球体形状に基づく「球面補正」

上記DMEデータをそのまま使用する場合、基本的に平面投影されているため、

そのままでは地形の位置・角度が正確ではありません。

上記解決のために、月の球体形状を踏まえた球面補正処理を行い、より現実に近い地形表現を実現しています。

 

■小規模クレーターの再現

DEMを元に作成した地形では、最大でも分解能が約2mと小規模なクレーターが省略されてしまいます。

上記解決のために本作では、月面地形モデリング手法に関する論文をもとにクレーターの配置とモデルの制作を行い、

DEMから制作した地形データに追加して配置しています。

※参考文献:狩谷和季, 石田貴行, 本田親寿, 大竹真紀子, 小島広久, 澤井秀次郎, 坂井真一郎, 福田盛介:障害物検知評価のための高精細模擬月面地形のモデリング手法,第 62 回宇宙科学技術連合講演会,2018.

 

〇クレーター個数の算出

「1km²あたりのクレーターの個数」文献値から算出し、対象エリアに必要なクレーター数を決定しています。

クレーターの合成

 

〇クレーター形状の作成

クレーター形状に関しても同文献の近似関数を参考に作成し、個々の個体差を出すためにノイズをかけています。

論文から算出したクレーター形状

 

■岩石の分布率について

月面に存在する岩石は、実際の観測データから得られた岩のサイズ別の分布比率を参考にFoliageを用いて配置しています。

さらに局所的な岩石密集地帯を再現するため、独自の岩石配置ツールを開発し、

プレイヤーが行動可能な広い範囲にわたり、より自然な岩石環境を構築しています。

岩石群の配置

 

■時間ごとの天体位置の再現

本作では、天体歴計算ライブラリ「SPICE」を用いて特定の緯度経度から見た地球と太陽の位置、星の方角を再現しています。

これにより、ゲーム内での光源の方向や地球の見え方など、天文学的に正確な天体表現を実現しています。


今後発展が見込まれる宇宙産業では、月面シミュレーションの需要が増えると予想されます。弊社がこれまで自動運転分野などで培ってきたシミュレーション環境構築のノウハウが活きる領域でもあり、本共同研究をきっかけに、宇宙環境の再現技術を向上し、宇宙産業へ貢献できる基盤づくりを進めています。

 

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